nokoto.の読書の記録📚 2024🍁伊坂幸太郎:グラスホッパー/マリアビートル/AXアックス

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2024.の読書の記録

AX アックス / 著者:伊坂幸太郎 (いさか・こうたろう) / 出版社:角川文庫

出版社からの紹介

「兜」は超一流の殺し屋だが、家では妻に頭が上がらない。一人息子の克己もあきれるほどだ。兜がこの仕事を辞めたい、と考えはじめたのは、克己が生まれた頃だった。引退に必要な金を稼ぐために仕方なく仕事を続けていたある日、爆弾職人を軽々と始末した兜は、意外な人物から襲撃を受ける。こんな物騒な仕事をしていることは、家族はもちろん、知らない。物語の新たな可能性を切り拓いた、エンタテイメント小説の最高峰! (角川文庫「AXアックス」裏表紙より)

主な登場人物

主な登場人物は、

殺し屋と文房具メーカーの営業マンの2つの顔を持つ「兜」こと「三宅」

兜の家族…兜の「妻」、息子の「克己」

兜の殺し屋業の仲介役である、「医者」

前作までの2作は数人の殺し屋や復讐者など複数の視点が入れ替わり進むスタイルだったのですが、この物語のほとんどは、兜の視点で進んでいきます。つまりは、兜の物語ということだと思います。

nokoto’sコメント

感想

殺し屋に家族がいることもある。

殺し屋としては切れ者で、スペシャリスト。家に帰ると妻に頭が上がらない夫であり、息子にお母さんの機嫌を損なわないように細心の気を使っているところを目撃されているお父さんでもある。そういうことってあるかも知れない。と、想像させられます。これは、面白い視点だと思いました。

お気に入りポイント

「マリアビートル」で活躍した二人組の殺し屋コンビ「蜜柑」と「檸檬」が登場します。ここで二人が登場してくれたのは、相当にうれしかったですね。

回想シーンで、いかに兜が優秀な殺し屋であるかが感じ取れて、その優秀な兜が家では妻に緊張し、気を使って生活していることが話されています。二人は信じられないといった感じで会話を交わしています。二人の登場に感謝です。

もう少し細かい感想

殺し屋といっても、家では普通のお父さん。家での家族としての役割は、お母さんも大変ですが、お父さんだって大変です。

兜は恐妻家と呼ばれるタイプの男性です。兜の妻は鬼嫁とまではいかなそうだし、普通にいそうなタイプだと思いました。物騒な仕事をしているため、大切な家族と過ごす家庭ではできるだけ平和に、穏やかに過ごしたいと願う兜の気遣いや性分が、極度に奥さんのご機嫌をうかがって、おどおどしてしまうことになってしまうようです。

息子の克己君がお母さんのご機嫌をうかがっているお父さんのことをよく見ていて気の毒がっています。そういったことも、父と息子の会話でかわされていて、兜と克己君の関係性もいい距離感で良い家庭だなって思いました。

この小説のタイトル「AXアックス」の意味は斧だそうです。兜と克己君の会話の中に「蟷螂の斧」についての話が出てきます。

「カマキリのことだ。カマキリが手の斧を振り上げている姿を思い浮かべてみろ。勇ましいけれど、しょせんはカマキリだ」

「負け犬の遠吠えみたいな意味?」

「似ているが、すこし違う。カマキリは勝つつもりだからな。弱いにもかかわらず、必死に立ち向かう姿を、蟷螂の斧という」

〜角川文庫「AXアックス」より〜

このお話の中での父と息子の会話は微笑ましくあります。

「あのな、俺が一番やりたいことは何なのか分かるのか」 

「知らないよ」

「息子の進路を心配することだ学校でも何でも、ああでもないこうでもない、お前の人生のことで頭を悩ませるのが、俺のやりたいことなんだ」

 息子が不愉快を顔に浮かべた。兜は気にも留めない。

〜角川文庫「AXアックス」より〜

兜は家族が大好きです。とても大切にしている家庭での一コマや初めてパパ友ができたりする日常と、家族には内緒にしている物騒な仕事も入り混じって話は進んで行きます。殺し屋としての兜の一流で鮮やかに仕事をこなすスマートさと、家庭の中で恐妻家の兜との落差が面白く読み進みました。

殺し屋シリーズには毎回スズメバチが出てきていましたが、今回も登場します。三作目にして、昆虫の蜂が敵として登場です。庭の木にできてしまった蜂の巣を退治することになるのです。

超一流の殺し屋と蜂との戦いです。殺し屋としては一流が故に仕事は鮮やかで完結にこなしている兜が、蜂に悪戦苦闘する様子はユーモラスな場面で、笑ってしまいました。人の命を奪う仕事をしながら、蜂の命を奪うことに罪悪感を感じて苦悩しながらも、家族を守るために奮闘しています。ホントにお父さんて大変ですよね。

そんな風に家庭での笑いを交えながら、殺し屋としての仕事もこなしていきます。家族のためにも物騒な仕事は引退したいと願い、家族を守るために兜は奮闘します。そして驚きと胸を打つ、切なく温かい感動に続いていきます。

まとめ

兜は腕利きの殺し屋で、妻がいて息子がいて、表向きには文房具の営業をしている、妻に頭の上がらない、さえないお父さん。

家族のために、物騒な仕事は辞めたいがなかなかやめられないことに悩み、家族を守るために奮闘している兜と家族のお話です。

笑いあり、アクションあり、涙ありとよくある殺し屋小説には収まらないお話で、おすすめの一冊です。

次の読書の一冊をお探しでしたら、ぜひ一読してみてください!

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