マリアビートル / 著者:伊坂幸太郎 (いさか・こうたろう) / 出版社:角川文庫
出版社からの紹介
幼い息子の仇討ちを企てる、酒浸りの元殺し屋「木村」。優等生面の裏に悪魔のような心を隠し持つ中学生「王子」。闇社会の大物から密命を受けた、腕利きの二人組「蜜柑」と「檸檬」。とにかく運が悪く、気弱な殺し屋「天道虫」。疾走する東北新幹線の車内で、狙う者と狙われる者が交錯する―。小説はついにここまでやってきた。映画やマンガ、あらゆるジャンルのエンターテイメントを追い抜く、娯楽小説の到達点! (角川文庫「マリアビートル」裏表紙より)
主な登場人物
主な登場人物は、
・息子の仇討ちを心に決めた元殺し屋の「木村」
・木村の息子に怪我をさせた張本人である中学生の「王子」
・裏社会の大物からの密命を遂行中の腕利きの殺し屋「蜜柑」と「檸檬」の二人組
・「真莉亜」から仕事を請け負っている殺し屋、とにかく運が悪いと嘆く「天道虫」こと「七尾」
この面々が東北行きの新幹線に乗り合わせ、東京駅から盛岡駅までの間に繰り広げられるストーリーとなっており、主に木村、王子、果物(蜜柑、檸檬)、天道虫の視点が入れ替わりながら進んで行きます。
nokoto’sコメント
感想
この作品「マリアビートル」を読んだ感想を一言でいうと、映画を見ているように読める小説でした――、といった感じです。なんというか、場所も新幹線の中や駅の設定で頭の中に浮かびやすく、登場人物たちがビジュアル付きで動き出す感じでした。これも伊坂先生の匠の技の成せる技でしょうか。読み終わるのがもったいなくなるような一冊です。
殺し屋が何人も登場しますが、それぞれのキャラクターが話の中に華を添え、殺し屋の存在を日常的にもコミカルにも感じさせ、暗く怖い殺し屋たちの話が軽やかな印象にも感じるように進んで行きます。
お気に入りポイント
前作である殺し屋シリーズ一作目「グラスホッパー」の登場人物も関わってきます。数年後といった時間軸のようです。「鈴木」さんの今はこんなが感じかぁと興味深く思ったり、「槿」の視点で進む場面も出てきたりで、あの世界とこの世界はつながっているんだなぁと感じてしまいます。
もう少し細かい感想
小説のタイトル「マリアビートル」ですが、作中でてんとう虫について語られています。
レディバグ、レディビートル、てんとう虫は英語でそう呼ばれている。その、レディとは、マリア様のことだ、と聞いたことがあった。誰から聞いたのかは思い出せない。
〜角川文庫「マリアビートル」より引用〜
真莉亜から仕事を請けている天道虫こと七尾も新幹線に乗り込み、スーツケースを奪うというミッションのため奮闘しています。七尾は驚くべき不運に見舞われ簡単な仕事も一筋縄では行かないと、悪戦苦闘しながら奮闘していきます。
また、二人組の蜜柑と檸檬は裏社会の大物峰岸からの依頼で峰岸の息子と盛岡に向かうため新幹線に乗り合わせています。二人は峰岸の息子を”ぼんぼん”と呼んでいます。
この二人組の殺し屋は分かりやすく個性的で、特に檸檬は会話の大半を機関車トーマスに結びつけて話をします。車内で出会った塾の講師にエドワードの説明をした後に、こんなことを言います。
意識するより先に、暗記していた説明が口から飛び出す。
「凄いですね。その説明、暗記してるんですか」
「受験科目にトーマス君ってのがあれば、俺は東大入ってたな」
〜角川文庫「マリアビートル」より〜
その暗記の裏には檸檬の辛かったり寂しかったりした生い立ちが隠されていそうですが、本当にトーマス博士になれそうです。檸檬のキャラに好感を持つ人は多いと思います。私もその一人です。
殺し屋たちの思惑がいくつも交錯する中、木村の仇討ちが気になってしまいます。仇討ちの相手である中学生王子は、気分が悪くなるほどに許せない奴だからです。
この小説は殺し屋が暗躍する話ですから、あちこちの場面で、首を折られたり、銃で打たれたりして命を落としてしまう場面が出てくるのですが、そういった場面は淡々と軽々と洗練された技のごとく描かれているので、暗いイメージをあまり与えません。ただ、中学生である王子の言動や行動、やってきたことだけは許せなく、見逃せない悪意でした。
木村と王子の会話で、王子が悪行をなすきっかけになる交通事故のエピソードを話す場面があります、
「その時に、二つのことを知ったんだ。」
「信号には気をつけよう、か」木村が言う。
「一つはね、やり方にさえ気を配れば、人を殺しても罰せられないのでは、ってこと。実際、その交通事故は、ごく普通の交通事故として処理されて、僕のことなんてまったく誰も気にしなかった」
「ま、だろうな」
「で、もう一つは、僕のせいで誰かが死んでも、僕はまったく落ち込まない、ってこと」
〜角川文庫「マリアビートル」より引用〜
王子は舞台である新幹線の中をウロウロし、乗り合わせている殺し屋たちに対面し、面白半分に関わって行きます。大人を見下し、中学生であることを盾にして、掻き回していきます。なんで、ここに王子が出てくるのかと、ほんとうにイライラしてしまいます。
王子は”人を殺してはどうしていけないの?”と、大人を試すかのように何度か問いています。
王子はこの小説の中でどこをとってもずる賢く、残酷で、悪意を持った嫌な奴に描かれていて、木村の仇討ちを応援したくなり、話が進んで行くに連れ王子の悪行を知るごとに、早く誰か!この悪魔の少年に鉄槌を!と願って読み進めることになりました。
まとめ
数々登場してくる殺し屋たちは個性的で、機関車トーマスが好きな「檸檬」を筆頭に魅力的に描かれています。木村の仇討ちはどうなるのか!どんな殺し屋が現れるのか!
次の読書の一冊をお探しでしたら、ぜひ一読してみてください!
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